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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2025/02/02 (Sun)
キング×トレイ 
キントレ初H話。
R18(ブログでは省いてあります)

春情微醺



 あの後、夜もだいぶ遅くなってからキングは宣言通りトレイの部屋にやってきた。トレイもキングがやってくるだろうと思って、初めから部屋の鍵は開けておいた。
 カチャリと小さな音がして、ドアが開く。ガチャン、と一回り大きな音がして鍵が閉まった。その一連の生活音に、入ってきた誰かがキングであることを感じる。絨毯を踏む微かな足音さえ、その歩幅からキングだとわかる。だからトレイはあえて声をかけない。振り向かない。
すでに部屋の中は暗い。部屋を見回して見てもトレイの姿はなかった。だがベッドの上のシーツが人型に盛り上がっていた。もう休んでいるのか。だが流石に寝てはいないだろう。トレイが横になっているだろうベッドに、キングはそっと近づいた。
今夜は月夜だ。窓からはカーテンの合間を縫って、月明かりが差し込んでいるはずだった。だがベッドサイドに置かれたローテーブルにスタンドライトが灯っていたために、月明かりは確認できなかった。弱い暖色系の光がほのかに部屋を照らした。どうせなら部屋の明かりを点ければいいのにとキングが言っても、ベッドに入り寝るまでの読書にちょうどいいのだといって、その小さな明かりをトレイは気にいっていた。朱雀らしく軸から傘に至るまで全体的に細かな装飾の入ったそれは、おなじく華美な寮の部屋にも似合っていた。もちろん明るすぎないその灯りをキングも気にいっていた。たとえトレイがその灯りの元で読書だろうが、何かをしていても気にならずに眠れる程度の明るさであったから。 
「トレイ」
 起きているのだろう、という意をこめて名前を呼ぶと、間を開けてもぞりとベッドの上のシーツの塊が動いた。シーツの合間から金髪の頭が覗いた。
「ん、ぁ……キング、ですか。遅かったですね」
「銃の手入れをしていた」
「あぁ……それで」
 ライトをつけたままにして眠っていたのか、トレイは寝ぼけたような口調で答えた。ギシリとキングがベッドに腰を下ろすと、トレイはベッドの中央から少しだけ脇によった。キングが眠るためのスペースを作ったのだ。用意されたスペースにキングは身を潜り込ませた。トレイもキングもお互い一八〇を超える身長だった。個室にあてがわれたベッドはそんな男二人が横になっても窮屈過ぎるというほどではなかったが、寝がえりをうつには狭かった。トレイが横になっていた場所は体温が移っているのか、温かかった。ほのかに清潔な石鹸の匂いもした。ベッドの中でキングが落ち着くと、するりとトレイが身を寄せてくる。それをキングも受け止め、ぎゅうと抱きしめた。
「それにしても……あれは俺でも慌てたぞ」
「はぁ、あのときは本当にすみません」
 昼間のリフレッシュルームでの一件を思い出したのか、トレイは自分の部屋だというのに赤面した。気の緩みと言うのはどんな人間であれ起こるものだ。それがたまたまリフレで起こってしまったというだけのことだ。特別何か意味があったわけではない。
「そういえば。キングだって、あのあと私にキスしたでしょう。リフレなのに」
「あれは、誰も見ていなかったからいいんだ」
「嘘」
 クス、と笑うトレイの唇をキングは指の腹で撫でた。
暗に舐めろと言われているのだ。トレイは自然に唇を開く。
「ん……」
 ちゅ、と濡れた音を立てて、トレイはキングの指を口に含んだ。ごつごつと節くれだった男の指。深く切り揃えられた丸い爪。せっかく噛まないように優しく咥えているのに、キングが悪戯心を出して、トレイの上顎を引っ掻くような仕草をする。
「ん、んう」
 名残惜しそうにトレイは唇を離す。
「シャワー、浴びてきたんですか」
 キングの指先からかすかに薬品臭と石鹸の混ざった香りがした。くん、と胸に鼻を擦りつけて匂いを嗅いだ。キングの普段使っているボディソープと、何か、嗅ぎ慣れない匂いを感じる。キングが身に纏う硝煙の匂いとも違う気がする。キングは普段から香水の類をつけていなかったはずだ。
「うん? オイル使ったからな。気になるか」
「いいえ」
 オイルと言うのは銃の手入れで使用したガンオイルのことだろう。それで合点がいった。
ある程度のメンテナンスはクリスタルの力でどうにかなるとしても、それでも我が命を預ける武器である。分身であるといってもいい。己の武器に手間暇をかけて、メンテナンスをかけるのは当然だろう。トレイ自身、手入れは勿論のこと、標的や季節によっても矢の種類を変えることはよくあることだった。気温が十度違うと一キロ近い弓力差が出る。使用する弓の種類によっても変わるが、だいたいそのぐらいの誤差は計算に含めなくてはいけない。いくら身についているといっても、それほど扱いには繊細なのだ。
 キングの銃も同じことだ。メンテナンスを怠ればそれだけ自らの命を危険にさらすことになる。ガンオイルの目的は潤滑や洗浄は勿論のこと、グリップを握る汗や、水濡れによる腐食を防ぐことにある。作戦は雨天だろうと必要があれば実行される。用心してし過ぎる、ということはない。
 石鹸とオイルの匂いのするキングの手のひらを両手で掴んで、トレイはすり、と頬すりをした。皮の厚い、固い手のひら。トレイの身体を撫でてくれる男の、手のひら。
 トレイはキングの手のひらの温かさに、再びうとうととしていた。キスや指舐めといった疑似性交程度ならば繰り返し行っていたものの、本来の意味で身体を重ねるといったことを、キング相手にトレイはしたことがなかった。まさか、これ以上のことをキングがするはずがない。そう思っていて、気を許していたのは事実だった。人肌が恋しくなる時は誰にだってあるだろう。その相手が気の置けないキングであるなら、なおさら断る理由がない。
普段ならこうしてこのまま抱き合って眠るだけだった。それなのに、キングはこの日ばかりは違った。
「トレイ。俺は、今からお前を抱くぞ」
「な、何言っているんです……っ」
一瞬、何を言っているのかわからなくて、トレイはキングを見つめた。キングは宣言し、有無をいわさずに呆けているトレイの両手首を掴み、ベッドに仰向けにして圧し掛かった。
「いった、痛い!」
トレイの手首は鍛錬の甲斐もあってか、けしてか細いものではない。男の手で掴んだだけでそうそう折れるものではない。だが候補生は戦闘のスペシャリストである。どの方向に、どれだけの力を加えれば、骨が折れるかなど知識として十二分にたたき込まれている。それはキングもトレイも同じことだ。トレイは耳障りな金切り声を上げるものの、全力で抵抗することはなかった。しかしそれはキングを受け入れたわけではなく、自身の手首が傷つくことを恐れたにすぎない。
「あ、あなた本気なのですか。自分が何をしているのか、わかっているのですか」
「わかっている」
 キングはトレイとは対照的に、普段と同じ冷静な声で答えた。
「わかってない! わかってないからこうして」
「トレイ」
 キングが名前を呼ぶと、トレイはびくりと身体を震わせてから大人しくなった。
「嫌です、嫌……」
「何がそんなに嫌だ」
 見下ろすキングに顔を見られたくないのか、トレイはばさりと頭を振って目を逸らした。長い前髪のせいで、表情は見えない。
「っ……だって、私とあなたは、きょうだいで、小さな頃から一緒にいて、こんなの」
「こんなの?」
 キングが続きを促すと、くっ、と歯を噛みしめてからトレイは口を開いた。
「こんなの、おかしいでしょう…!」
 今さらだ。
 本当に、今さらだ。
おかしいというのなら、始めからキングを許さなければよかったのだ。
キスをすることも、触れ合うことも。
キングを許す感情に、名前をつけなければならないと思っていた。だがそれを先延ばしにしたのは、トレイだ。今のトレイは必死になってキングから逃げる術を考えている。だがいつまでたっても良案は思い浮かばなかった。普段ならば考えずとも、流れるように案も言葉も出てくるのに。初めてのことにトレイは泣きそうになった。
 いつかこうなるとは朧げながら思っていたけれど。それでもその『いつか』が今日だなんて、思っていなかった。敢えて目を逸らしていたといってもいい。明確に感情を言葉にすることを求められて、トレイは目をつぶるしかなかった。
「考えたことなかったのか」
「え?」
「これだけ一緒にいて、今まで考えたことがなかったって言うのか、お前は」
「何を」
「俺とお前が寝ることさ」
「だって、そんなこと……普通じゃ、ない」
 まだ言うか、と言うようにキングはトレイの前髪を払った。隠すものがなくなり、しぶしぶキングを見上げてくるトレイの目は酷く不安げだ。普段の自信に満ちて講釈をたれるトレイの姿は何処にもない。
「傍にいて、隣同士でいることに違和感がなくて、居心地よければ自然なことだと思うがな、俺は」
「……、……」
 掴んでいた手首をようやく離し、すっとトレイの胸からわき腹に向かってキングの手のひらが撫で上げた。
「嫌か?」
 ふるり、とトレイは頭を振った。その意味は拒絶ではない。
 嫌ではない。嫌ではないのだ、どうしようもなく。だから、困っているというのに。
「なぁ、トレイ。もう一度聞くが、本当に考えたことなかったか?」
 逃げられない。もう何を言っても、何をしても、逃げられない。そう悟ったトレイが降参だ、というばかりに叫んだ。
「あ……あります。ありますよ! 何度も、何度もありますよ!」
「ほらみろ」
 やっぱり、というようにキングが笑った。
「嬉しそうに笑わないでください、普通じゃないのは本当なのですから」
「それで?普通じゃないっていうのなら、どうしたらいいのか、お前が読んでいる本に答えはあったか」
「ないから、困っているんです……っ!」
 ぶっ、と堪えきれなくなったのか、キングはいよいよ噴き出した。
「ふっ。馬鹿だなぁ、トレイは」
「なんですって」
「いや、別に。だいたい男同士なのに変だって、『普通』最初に思わないのか。男同士でキスしたいって、セックスしたいって考えるの、変だって」
「あ……」
 初めて気づいた、というようにトレイはぱちぱちと瞬きを繰り返した。その様子にキングはもう一度、馬鹿だなぁ、と笑った。
「だって、でも、なんて……あさましい」
「お前なぁ。俺の気持ちまであさましいの一言で片づける気なのか」
「い、いえ、そういうわけでは」
 しどろもどろになりながら、言い訳を探すトレイにキングは一つ、溜息をついた。
「それに、あさましいっていうのなら、お前だって同じだろ」
「キング」
「もう、黙れ。……目は、閉じていろよ」
 トレイの前髪をかきあげて、キングは額にキスをした。トレイの震えるまつ毛が、頬に影を落とした。
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2012/05/05 (Sat) FF零式 Comment(0)
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