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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2025/02/02 (Sun)
動物化注意!K→猫、3→うさぎ。
誰得だ、俺得だうおおお!ねこうさ可愛いよねこうさ!ねこうさ習作。
最後まで書けたらインテ持っていきます…希望…。
ねこうさ!


かりかり。
聞きなれない音を聞き、トレイは読んでいた本から頭をあげた。
かりかりかり。
長い耳を立てて、音のありかを探す。ぴく、と耳が反応した。窓辺だ。何かが爪を立てるような、音。
気になって窓の下を覗くと、そこには見なれぬ金色の毛玉が丸まっていた。何だろうこれは。胴体と同じくらい長い尻尾に、三角の耳。濃い金色の毛並みは艶やかだ。触ったらさぞかし気持ちがいいだろう。だけれどこの毛玉の正体が判らない。
首をかしげて、指先を唇に持っていく。考え事をする時のトレイの癖だ。
「あっ」
しばらく毛玉を見つめていて思い出した。猫だ。この毛玉は、猫という動物だ。いつかマザーから借りた本で見たことがある。小型の肉食獣だ。けれど本物を見るのは初めてで、少しだけ怖い。トレイはといえば、長く白い耳が特徴的なうさぎだった。うさぎは草食動物で、猫とは捕食、非捕食の関係にある。簡単にいえば猫は天敵である。窓さえ開けなければ、危険はないだろう。関わらない方がいい。トレイはそう判断し、そっと目を逸らそうとすると、外からにゃあ、と猫の鳴き声が聞こえた。
「おい、お前。気づいているんだろう。窓を開けてくれないか」
「なっ……」
 猫からトレイの姿は見えていないと思っていたのに、急に話しかけられてトレイは息をつめた。
 かりかり、と爪で窓枠を引っ掻く音がする。
怖い、怖い―――。
けれど、おそらく窓下にいる猫はトレイが窓を開けなければいなくならないだろう。観念して少しだけ窓を開けて、トレイは猫を見下ろした。するとすたん、としなやかに背を反らせて猫はトレイの目の前にジャンプした。ゆらゆらと長い尻尾が左右に揺れる。
「あの」
「なんだ。早くしてくれ」
「うわっ」
 猫はトレイの了解を得ずにするりと窓の隙間から部屋に入ってきた。トレイは驚くと走って部屋の隅に逃げて、上目づかいで猫を見た。
「あの。私のこと、食べたりしませんか」
「は?」
 一瞬、猫が固まった。
「私は、うさぎですから。ねこさん、私のこと食べたりしませんか」
 びくびくと明らかに怯えている様子のうさぎを見て、猫ははぁと溜息をついた。
「あいにく飼い主から十分飯は貰っている。お前に手を出すほど飢えてはいない」
「そうですか、それは安心しました」
 ほっとした様子をみせたが、それでもトレイは部屋の隅から窓際の猫のいる場所まで恐る恐る戻ってきた。
「いいですか、私は餌ではありませんよ」
「わかった」
 再三確認を取ると、開け放していた窓をトレイは閉めた。読んでいた本をぱたんと閉じて、キングに向かいあった。
「それにしても……。ここに誰かが来るのは初めてです。いったいどうしたのですか」
ここはマザーの屋敷の一室だ。マザーというのはトレイの飼い主の女だった。マザーの部屋は図書館かと思うほど雑多な本が多く、トレイはよくここで読書に明け暮れていた。同じようにマザーに飼われているエースやデュースならばわかるが、屋敷の外の者がこの部屋に来るのは初めてだった。怖がっていては何も始まらない。まずは相手を知るところからだ、とトレイは意を決して猫に話しかけた。
「仲間の猫に追いかけまわされてな。隠れるのにちょうどいいと思ったら、お前の長い耳が窓から見えたんだ」
「追いかけまわされるって、あなた何かしたんですか」
「逆だ。俺はグループのリーダーだ。大方ナインが面倒事を起こしたんだろう」
 トレイはほとんど屋敷から外に出たことがなかった。初めて聞く外の話に、自然と耳がぴくぴくと動いた。ナインというのも、仲間の猫なのだろうか。
「あぁ、そうだ。俺の名前はキング」
「キング?」
 その言葉をトレイは知っていた。これもマザーの本からの情報だが、キングという言葉には「王」だとか「支配者」「統治者」といった意味がある言葉だった。たしかにグループのリーダーであるならば「キング」という名も似合いなのかもしれないが、普通名前で使わないのではないか、と思う。
「お前は。お前の名前は? 名前を知らないと不便だろう」
「トレイです。この家に三番目に来たから、トレイ」
「ふぅん」
 キングはトレイの名前にさほど興味を持たなかったようだった。マザーに飼われているうさぎは三匹で、トレイの前にエースとデュースがいた。意味はそれぞれ一と二だ。飼われた順で名前を付けられた。合理的で区別以外の何の意味もない。そのことに悲しいと思ったことはないが、少しだけ寂しいとは感じたことはある。たとえ名前が番号でも、マザーから受ける愛情は変わらないのはわかっていたけれど。
「ねこさんは、どうしてキングっていう名前なんですか」
「うん? お前、変なことを聞くな。そうだな……いつの間にか仲間からキングと呼ばれていた。自分から名乗ったわけじゃない。名前なんて、そんなものだろう。誰かと区別が出来ればそれでいい」
 納得できるような、出来ないようなことを言われて、トレイは不満げにそうですか、と答えた。
「そうさ。生まれと名前は選べない。お前はそうじゃないのか?自分の名前、好きじゃないのか」
「そういうわけじゃないですけど……」
「変な奴だな」
 キングはふっ、と笑うとトレイの頭を撫でた。そのまま耳にかけてもする、と手のひらを滑らせる。
「んっ! なにするんですか、もう」
 ふわふわで真っ白な柔らかい毛並み。十分に手入れされて可愛がられている証拠だ。ぴんと立つ長い耳も可愛らしい。キングもうさぎという動物を見るのは初めてだった。怖くはないが、興味はある。目や口以上に、トレイの耳は饒舌だ。耳の動きを見ているだけでも飽きそうになかった。
「じゃあな」
「あっ、待って」
「なんだ」
 入ってきた窓から同じように出ようとするキングの背中を、トレイは引き留めた。
「また会えますか」
 トレイは窓辺に座るキングを見た。
「またここに来てくれますか。私は、ここから出られないから」
「そうだな……。気が向いたら、な」
 そういうとキングは窓の外に出て行ってしまった。たたた、と屋敷の前にある茂みに向かってキングが走るのを、トレイは窓から見ていた。するとトレイが見つめていたことに気付いたかのように、不意にキングが振り返った。
「ねこさん……」
 にゃあ、と一声鳴くとキングは茂みの中に姿を消した。
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2012/08/05 (Sun) FF零式 Comment(0)
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