忍者ブログ
身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

2025/02/02 (Sun)
エース×トレイ 
Pixivにて全文掲載しています。
R18(ブログでは省いてあります)




君の声が聞きたい
 
 
 
きっかけは何であったのか、今となってははっきりと覚えていない。トレイに聞けば詳細を覚えているかもしれなかったが、エース自身は覚えていなかった。おそらく仕掛けたのはエースからだったと思う。教室で勉強をしていた時であったか、クリスタリウムで本を読んでいた時であったか、たまたま隣同士で座ったときに、トレイにキスをした。トレイは最初驚いたように目を見開いたが、いつもの調子で矢継ぎ早に口を開くこともなく、声を荒げることもなく、エースを受け入れた。その後何度か人目を憚りながらキスを繰り返したが、その度にトレイはエースに答えたのだ。あと一歩、もう一歩だけ。様子を見ながら獲物に近付く肉食動物のようにエースはトレイにキスをして、トレイもそれを受け入れた。
強制しているわけではない。いつだって逃げることも、抵抗することも出来たはずだ。トレイにはそれだけの体力がある。そもそもエースよりトレイの方が身長も体格も大きかった。身体的有利さはトレイにある。口だって0組一達者な部類だ。酷い言葉で拒絶することも出来たはずだ。だがトレイはどれもすることはなかった。それどころか、エースの行為に対して何故、どうしてという問いさえ投げなかった。あのトレイが。聞けば答えただろうが、エースから聞くことなかった。
許されていると思った。そうだ。許されているのはエースの方だ。トレイに許されている、拒否されていないという自惚れが、エースの行為をより増長させたのは確かだ。
そして現在に至る。
 
 
* * *
 
 
 そろそろ消灯時間になる、という時刻にトレイの部屋をノックするものがいた。トレイはすでにシャワーを浴びて、寝間着の上に上着を羽織るといった簡単な装いをしていた。人前に出る姿ではない。だがこの時間にトレイを訪ねる者など限られている。そっとドアを開け、視線を軽く下に向ければそこには見知った人がいた。
「エース。こんな遅くにどうしたんです」
「お前、ベンチに本忘れていっただろう。持ってきた」
「あぁ、わざわざすみません」
「明日休みだしな。その間に読みたいだろうと思って」
「ありがとうございます、助かりました」
 エースが持ってきてくれた本は、昼間、教室の裏庭でエースと話しているときにトレイが忘れてしまったものだった。クリスタリウムから借りている、貸出期限付きの魔導書だ。何を慌てていたのか、自分でもどこに置き忘れたのか覚えていなくて、正直困っていたのだった。元々休みの間に読もうとしていたのでありがたい。
 時間が時間だ。寮長に見咎められたら面倒くさいことになるので、とりあえずエースを中に入れる。候補生に与えられた部屋は広いが、客人用のソファやテーブルなどという気の利いたものはなかった。豪奢な壁の装飾や高価な絨毯は敷き詰められていたが、家具といえばベッドと机と、天井まで届く立派な本棚ぐらいだった。シンクやケイトといった女子達は自分の好きな家具や小物を部屋に持ち込んでいるようだが、トレイは初めから備えつけられていたものしか使っていなかった。部屋をわざわざ覗くことはしたことがないが、おそらく男子の部屋のほとんどはそうだろう。これからしばらくこの寮で生活することになるのだろうから、次の休暇にでも簡単なテーブルセットを買ってもいいかもしれない。
 座るべきところがないのは誰の部屋も同じだ。エースは断ることなく、トレイのベッドに腰をかけた。皺一つなくぴたりとシーツがかかっている様子はいかにもトレイらしかった。エースが座った場所を中心にしてベッドのシーツに皴が寄る。先ほど受け取った本を持ったまま、トレイも隣に座った。ベッドが波打つ。元々外局で家族あるいは兄弟のように生活していた仲だ。性格も重なって、遠慮なくトレイのベッドに寝転ぶと、トレイも同じようにエースの隣に寝転んだ。ベッドがギシリと盛大な音を立てる。部屋のほぼ中央に置かれたそのベッドは安物ではないが、さすがにもはや子どもといえない男が二人乗れば、軋みもする。
「もう寝る?」
「いいえ。さすがにまだ早いですよ。せっかくあなたが持ってきて下さったのですから、少し目を通してみます」
ベッドにうつ伏せになると、早々にトレイは本を開いた。
 外局と違って、魔導院で与えられた寮の部屋は個室だ。誰の視線もないにもかかわらず、寝間着の第一ボタンまできちりととめたトレイの姿に、外局を出ても変わらないな、とエースは思う。
「それ、面白いのか」
「指南書ですからね。面白いというものではないですが、まぁ、利用価値はあるでしょう」
目次を開いて、必要なところだけを探して読み進めるトレイの視線に無駄はない。あらかた目を通した後は頼んでもないのに、トレイ教授の特別講義が始まるのは予想がつく。早々に本を閉じさせた方が賢明だ。
「……」
一度集中してしまうと、近くに人がいても見向きもしなかった。だが真剣な表情で本を読むトレイは嫌いじゃない。エースは仰向けになり、邪魔をしない程度にトレイを見つめた。見上げるトレイは綺麗だった。ページをめくる指先も、確かに男の手ではあるのだが、無骨すぎることはない。丸みを帯びた切り揃えられた爪先もトレイらしい。少々長めの前髪が顔に影をつくる。本を読むのに邪魔ではないのだろうか。適当に切るか、クイーンのように前髪をピンでとめたらいいのに。そうだ、今度は前髪を止めるピンを持ってきてやろう。
「……そうか。理由がほしいのか」
「エース?」
「何でもない」
「うわ」
くい、とトレイの前髪を掴むと、エースはトレイに口づけた。
「ふっ……んん」
急に引っ張られてよろけるが、エースを押しつぶさないようにトレイは両腕を突っ張った。触れるだけのキスをして、ふん、とエースは鼻を鳴らした。
「何ですか、急に」
「逃げないんだな」
「いえ……。逃げる必要がないだけです。あなた、初めから私の部屋に泊っていく気だったでしょう」
「期待していたんだ?」
「そういうわけでは……」
 ない、と言おうとしたが再びエースの唇に塞がれて言うことが出来なかった。いい加減身体を支えている腕が疲れてきて、どさり、とエースの脇にトレイは倒れこんだ。その拍子にまた唇が離れる。名残惜しそうに目を細めるトレイを見て、エースは満足げに笑った。
「期待には、答えてやらないとな」
 エースは開かれたままだった魔導書をぱたんと閉じた。
「エース」
「口開けて」
 エースの命令に噛みしめていた歯を緩めれば、無遠慮に歯列を割ってエースの舌がトレイの口内を蹂躙した。上顎を舐められて、ぞくりと背筋を快感が走る。だが、まだだ。
「んっ……ふ……っ」
 逃げを打つトレイの舌を捕まえて絡めれば、素直に従うのが愛おしい。ちゅく、と濡れた音を立ててキスをすると、飲み込みきれない唾液がトレイの唇の端から一筋流れた。
どうせ自分かトレイのものなのだから、とエースは一度唇を離し、トレイの顎を舐めた。
「ひぁああ」
「……なんて声出すんだ」
「だ、だってエースが」
 黙らせるようにエースはトレイの頭を胸に押し付け抱き締めた。普段立っていてはけして出来ない体位だ。いつも見上げるばかりで、こうして胸に抱くなんてことはベッドの中でしかない。0組の中で自分は小柄である、という自覚はある。文句を言ったところで、背が伸びるわけでもない。いい加減見上げることには慣れたが、それでも気にしていないと言えば嘘になる。
「トレイ、いい匂いするな。石鹸?いや、コロンかな……」
 とりわけ身だしなみに気をつけているトレイである。風呂上がりにコロンくらいつけていてもおかしくなかった。くん、とトレイの髪に鼻を埋めてみても、トレイは大人しいままだった。それをいいことに、エースはトレイの寝間着のボタンに腕を伸ばした。
PR
2012/05/05 (Sat) FF零式 Comment(0)
Name
Title
Text Color
URL
Comment
Password
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Powered by ニンジャブログ  Designed by ピンキー・ローン・ピッグ
忍者ブログ / [PR]