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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/04/25 (Thu)
6/16FFオンリーにて配布したK3ペーパーです。
うさもふうさもふ!
うさトレ
 
コン、コン、コン、コン。
 ノックを四回。部屋の主は出てこない。
「トレイ?」
 主の名前を呼んでみても、部屋のドアが開かれる事はなかった。
「……ふむ」
 キングはどうしたものかと開かないドアを見つめていた。
場所は候補生寮。トレイの部屋の前である。普段ならば全員が揃う前に教室の定位置に座っているはずの彼の姿が、今日はなかった。無断で講義を休む事など珍しい事もあるものだ。教官であるクラサメにも、キングのCOMMにも、連絡はなかった。クラサメにトレイはどうしたのか、何か聞いていないかと聞かれたが、知らないものは答えようがない。キングだって、そもそも0組全員を把握しているわけではないのだ。
 だから、こうして講義が終わった自由時間にトレイの様子を見に来たのだが。
 暫く部屋の前で待ってみたものの、反応はない。もちろん魔導院の中も探した。定番のクリスタリウムはもとより、テラスやチョコボ牧場も見て回ったがトレイの姿はなかった。なにか特殊な任務についているだとか、作戦に参加しているだとか考えたが、そのような話も聞いていなかった。なによりクラサメに知らされていない事がおかしい。念のため、トレイのCOMMに連絡してみたが返事はなかった。体調が悪いなら悪いで、誰かに連絡してもよいものだが。
 その時、ことりとトレイの部屋の中から物音がした。気のせいだったかも知れない。もしかしたらと思い、トレイの部屋のドアノブをキングは握った。
 カチャリ。
 ドアのカギは開いていた。そうっと開けてみたが、やはり人の気配は無いようだった。だがトレイが鍵もかけずに部屋から出ていく事があるだろうか。もう一度、トレイ、と名を呼んでからキングはトレイの部屋に入って行った。
 
* * *
 
「トレイ、いないのか」
「キッキング!どうしてここに」
部屋の中に、トレイはいた。しかも朱い外套を頭から被っていた。その様子からベッドに寝ていたのだろう。急にキングが部屋に入ってきて、飛び起きた、というふうだった。明らかに狼狽したような顔を見せるトレイに、キングは眉を寄せた。
「……。何、してるんだ」
「こっこれは、諸事情がありまして」
 顔色はさほど悪くはない。体調が悪いのではなかったのか。
「部屋の中なんだ。まずはその外套、脱いだらどうだ」
「絶対嫌です」
 頑なにトレイが拒否する時は、必ず何かある時だ。見られたくないものがある時だとか、何か隠し事がある時だとか。案外こいつはわかりやすいのだ。
「トレイ」
 キングが言いたい事がわかったのか、トレイはしぶしぶというように外套に指をかけた。
「いいですか、絶対笑わないでくださいよ」
そういってトレイが外套を外すと、ぴんと立った二本の長い耳が現れた。
「……、……」
「ちょっと、キング。何か言ってください」
「いや……。ふざけているのか」
「そんなわけないでしょう!」
 それは紛れもなく耳だった。おそらくうさぎだろう。トレイと同じ髪の色、濃い目のハニーブロンドだ。ふわふわしてやわらかそうだ。キングは欲のままにそっとその長い耳に腕を延ばした。
「ひあ……っ」
 ふわふわして、温かい。短い毛の手触りが心地よい。ずっと撫でていたいとも思ったが、その耳がプルプルと震えているのに気がついて、キングは慌てて手を放した。
「すまん」
「いえ……。で、用件は、なんです」
「ん?」
「あなたがここに来た理由です」
「あ、ああ。クラサメにも無断で講義を休んでいたからな。心配して来てみたんだが」
 まさか、こんなことになっているとは思わなかった。
 トレイのベッドにキングが腰を下ろすと、トレイも大人しく隣に座った。耳は片方だけへたりと折れていた。どうやら感情によって変化するらしい。
「それは、ありがとうございます。ですが、見ての通り私はこういった状態ですので、暫く講義を休みますとクラサメ隊長と皆に伝えていただけますか」
「それは、かまわないが……。いつから耳が生えたんだ?」 
 目の前でフルフルと揺れる耳が気になって仕方ない。そっと撫でるとトレイはくすぐったそうに身を震わせた。
「クリスタリウムでカズサに薬品を飲まされました」
「あぁ、なるほど……」
 カヅサが原因だとわかれば納得もいく。カヅサとはクリスタリウムの空き部屋に勝手に個人的な研究室を構え、暇そうな候補生を見ると自分の研究の実験台にする少し危ない人物だ。元はアギト候補生であり、エミナやクラサメといった教官達と同期だときいた。武装第六研究所の研究主任の一人であり、朱雀を代表する優秀な研究者であるはずなのだが、どうにもただの変態研究員にしか見えなかった。
クラサメからも冗談半分だろうが「カヅサには近づくな」と再三言われていた。にもかかわらずどうしてトレイは引っかかったのだろうか。
「いえ、いつもクリスタリウム奥の閉架書庫の鍵を御借りしていますし、協力すると言ってもほんのお礼の気持ちだったのですが」
「それで、一体何の研究をしたらこんな……。うさぎ、か?うさぎの耳をはやす必要があるんだ?」
 しゅん、とトレイのもう一方の耳が垂れ下がった。わかりやすい。
「どうも女性兵士に使用して、敵兵を油断させる、という作戦に使うようですが、あまりに馬鹿げていると却下されたそうです」
「それは、まぁ、そうだろうな……」
 たしかにそういった店は存在するが、あくまで一部の特殊な性癖を持った相手向けの店だ。トレイがうさ耳を生やしたところで、なにも……。
「……キング。あなた、さっきからずっと耳触っていますね……」
「ん、あぁ、すまん」
「もしかして、こういうのが趣味なのですか?」
 疑うような眼でトレイにじっと見詰められたが、キングは目を逸らすことなくこう言った。
「馬鹿を言うな。俺はうさ耳があっても、なくても、お前の事は仲間だと思っているし、お前の事が好きだ」
「何どさくさにまぎれて告白しているんですか。恥ずかしい人ですね。私の方が恥ずかしいですよ!」
ふい、と背中を向けたトレイの尻に、キングは不自然なふくらみを見つけた。
「おい、まさか」
「なんですか、もう……ってズボン脱がさないでください!」
 騒ぐトレイを押さえつけて、ぐいとズボンを下ろすとそこには髪と同じ色のふわふわしたものがあった。
「尻尾、か」
「本当、もう、恥ずかしいので止めてください……!」
「これ、いつになったら治るんだ?」
 短い尻尾を指でつまみながら、キングはトレイの顔を覗き込んだ。トレイは赤くなった顔を見られまいと背けるが、うさ耳はぴんとまっすぐ立ちあがっていた。
「薬が切れるころ、二、三日で治るとは言っていましたが」
「ふん。たまにはうさ耳、いいかもしれんな」
「な、どういう意味ですか、キング!」
「わからないなら、わからんでいいさ」
 パタパタと揺れる長い耳は正直だ。
そうだ。
たまには可愛いところを、素直なところを見せてくれ。
普段は雄弁であるのに、肝心な事になると、なかなか言葉にしてくれないのだから。
「あ、ちょっと、キング……っん」
 ちゅ、とトレイの唇にキスをする。抗議するようにトレイの口はもごもごしていたが、うさ耳の方はへたりと垂れさがった。
 たまにはこうして素直な反応を見るのもいいかもしれない。
 そう考えながらキングはキスしたまま、唇をにいと歪めた。
 
* * *
 
数日後、騒ぎを聞いたクラサメが、カヅサを氷漬けにしたとかしなかったとか。
【終】
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2013/06/22 (Sat) FF零式 Comment(0)
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