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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/04/23 (Tue)

「K3 Tutorial」より抜粋。配布終了しましたので全文掲載いたしました。
キントレ可愛い!
クリスタリウムでいちゃいちゃK3。

密会は森の中で
 
 
 
 ギィと音を立てて扉をあけると、そこは広い吹き抜けになっていた。微かに聞こえる話声、本のページをめくる音、軽い咳払い。天井まで届く本棚は圧巻だ。窓からは午後の柔らかな日差しが差し込んでいた。
 朱雀魔導院、クリスタリウムである。
左手にある掲示板に向かい通知に目をやれば、そこには定期試験の予定が貼り出されていた。しかし0組には関係がない。その代わり、0組には時折担当教官であるクラサメから独自の試験や課題が出されていた。今日クリスタリウムにやってきた理由も、課題が出されていたためだ。でなければ、用事もないのにわざわざこんなところには来ない。トレイやクイーンではあるまいし。0組全員が同じ課題を出されていたならば、クイーンあたりに要点を取りまとめてもらえば良かった。だがあいにくとクラサメは個々に課題を出していた。暇人でもないのに余計な事をしてくれるなと内心悪態をつきながら、キングはクリスタリウムの入口正面に設置してある『朱の目録』を開いた。
 
 
* * *
 
 
 『朱の目録』というのは、魔導院に所属している者であれば誰もが開く事が出来る端末だ。ID代わりのCOMMと連動して、クリスタリウムの蔵書を検索する専門端末だ。クリスタリウムは一見一階と地階が続いた広間に見えるが、実際はもっと広い。開架式になっている部分はほんの一部で、その倍以上の広さの書庫が広がっていた。横は通常のクリスタリウムの奥、ちょうどエントランスの真下あたりまで、縦はさらに地下まで続いているのではないだろうか。 
仮にも朱雀の中枢が置かれているペリシティリウム朱雀の一部である。国家の所持する貴重な資料が数多く存在し、またそれらを保管、整理、研究する部署が置かれている。資料の破損を防ぐためにも、重要な本は書庫に仕舞われていた。当然書庫に入る権限を持つ者は、そう多くない。いくらアギト候補生といえども簡単には許されていなかった。自由に入る事が出来るのは専属の文官や、クリスタリウムに研究室を構えているカヅサぐらいのものだろう。
当然、キングは今まで書庫に入った事はなかった。何よりそんな場所に行く用事など今までなかったからなのだが。
『朱の目録』を開く。COMMと繋げるとぼうっと赤黒い光を放ちながら本の形をしたそれは開いた。
キングがクラサメから与えられた課題は『朱雀・皇国国境紛争時における軍神利用の有益性』だ。0組の指揮官としての役割も求められるキングには、朱雀はもちろん皇国の地勢情報も求められる。何処に誰を配置し、いつ軍神を召喚し最大の効果を得られるか。朱雀は過去の歴史に置いて度々隣国と争いを繰り返してきた。そしてその時は必ず強大な力を持った軍神を召喚してきたのだ。多大な犠牲を払って。今ではあまりにも朱雀の人的損害が大きすぎる為、『秘匿大軍神』などと呼ばれている。だが仮定の話であれば、参考になるものもあるだろう。紙上で模擬実験をするのも無駄ではない。
「ないな……。む」
あった。朱雀のルシに関する文書だ。だが場所がよくない。書庫だ。取りに行くのが面倒くさい。だが面倒だといって終わるものでもない。ならば面倒なことは早く終わらせた方がいい。古い書物だったが古語で書かれているのではないだけましだ。
「……、……」
キングは眉間にしわを寄せながら、貸出申請用紙に文書の題名を書き殴った。
 
 
* * *
 
 
 貸出カウンターに申請用紙を持っていくと、そこには見知った人物がいた。キングの姿を認めると、その人物は本から目線を上げて、一瞬おや、と驚いたような顔をして、そして目を細めた。
「あなたが来るなんて珍しい」
「……何故ここにいる」
 クリスタリウムの専属文官が常時座っているカウンターには、いつもの文官ではなくトレイが座っていた。
「いえ。文官殿が会議で席を外すといっていたので。その間貸出希望の候補生が来たら困るでしょう。なので、少しの間ならばと私が交代したのです」
 何度もクリスタリウムに通ううちに、彼と顔馴染みになったのだという。魔導院に来ても外局時代と何も変わらないと思っていたが、トレイはトレイなりに魔導院に馴染み、キングの知らない付き合いを確立していたようだ。そういうキングも魔導院に来て、銃の整備士やキングと同じ銃を使う候補生数人と知り合いになった。時折共に訓練をすることもある。外局時代は全くありえなかった人脈だ。おそらく彼らの事をトレイは知らないだろう。
「それで? 今日はどうしたのです」
「ん、あぁ。これなんだが」
 貸出申請用紙をトレイに見せると、トレイは「あぁ」と声を上げて用紙を受け取った。
「書庫ですね。取りに行きましょうか」
「入れるのか」
「えぇ。鍵も預かっています」
 ちゃら、と音を立ててトレイが見せた鍵は、木札がかかった随分旧式のものだ。トレイは席に『離席中』と看板を立てると席を立ちあがった。
 
 
* * *
 
 
 バン、とクリスタリウムの奥の扉をあけると、地階に続く階段だ。書庫は地階の開架書庫のさらに奥にある。机に向かう候補生の姿を脇目に見ながら、奥へ奥へと進む。もうひとつ大きな扉の前につくとようやくトレイは鍵を取りだした。ガチャガチャと音を立てて鍵をまわすと、扉が開いた。薄暗く、埃っぽい淀んだ冷えた空気が流れ込んでくる。壁際のスイッチを押すと電灯に明かりがついたが、それでも薄暗い。
「えぇと、たしか……。あぁ、こちらですね」
 書庫には普段閲覧できない書物がごまんと並んでいるが、それがどれだけ貴重なものなのか、キングはわからない。興味なさげに背表紙を目で追ってみるが、やはり題名だけ読んでもよくわからなかった。
「キング」
 数列先の本棚の奥でトレイが呼ぶ声が聞こえた。声をたどり、トレイを追いかけるとキングに背を向けたトレイの姿を見つけた。
「はい、お探しのものはこちらでしょう……って、ちょっと」
 目線の先、ちょうどいい場所にトレイの項が見えた。キングは思わずトレイの白い項に唇を押しつけた。
「こんなところで盛るなんて、やめてください」
「誰も来ないだろう」
 背中から抱きついて、キングはぎゅうと腕を回した。胴に回されたキングの腕に、トレイは指先を添えた。
「そういう問題では、ありませんよ。今は、鍵が開いていますから誰が入ってくるかわかりませんし」
トレイはブル、と背中を震わせた。嫌だというのであれば回された腕を振り払えばいい。しかしそうしないのだから、トレイだって悪い。
「んっ……、ん、ふぁ」
 項から、唇。キングは唇を滑らせて、トレイの唇を貪った。そっと開いた歯列を割って、舌を絡めた。柔らかい、肉厚の舌を追いかける。
「んぅ……、あっ」 
 どすん、と身体が揺れてトレイは本棚に後頭部と背中をぶつけた。ぐらりと揺れる本棚にはっとする。一八〇を超える男が勢いよく寄りかかったらどうなるか、想像できないほど馬鹿じゃない。
トレイは恥ずかしさ半分、引き離すようにキングの胸を手のひらでどんと突いた。
「目的の本を見つけたなら、キング、もう出ましょう」
「トレイ」
「こんなところで始められたら、制服が埃だらけになってしまいますからね。さぁ、行きましょう」
 引き留めるように名前を呼んでも、トレイは振り返らずに前を歩く。長く伸ばしている金の前髪から微かに見える、トレイの耳は赤かった。その姿にささやかな満足感を覚えて、キングはもう一度「トレイ」と名を呼んだ。
「っ。何するんです」
 トレイの手首を捕まえて、抱きこむ。赤いトレイの耳に注ぐように唇を寄せた。
「今夜、お前の部屋行ってもいいか?」
「レポートが終わるまで来ないでください!」
 間髪いれず鋭くトレイの声が返ってきた。おいおいクリスタリウムでは静かにしないといけないんじゃなかったのか。 
「なら終われば行ってもいいってことか」
「そうは言っていません!」
トレイの言葉にキングはくく、と笑う。キングの腕を振りほどいて先を歩くトレイの背中を見ながら、キングは上階に続く階段を上った。
 
 
 
【終】
 

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2013/06/22 (Sat) FF零式 Comment(0)
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