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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/05/19 (Sun)


冬コミ新刊。P36/¥300/R18。本編準拠K3です。
関係が出来上がっているK3。まだトレイがもだもだしてます。
面倒くさいトレイと、黙って待ってる男前キングが書けたら
慈雨の檻



 雨は静かに寮の窓ガラスを濡らしていた。朱雀において、今の季節は年二回ある雨季にあたる。蒼龍のように一年中雨や霧ばかり、あるいは白虎のように雪と寒さに包まれている、ということは朱雀ではない。他国に比べ季節もはっきりしており、適度な雨量もある。水があるというのはそれだけで重要な資源の一つだ。それが豊潤な大地を生み出し、農作物や家畜を育て、安定した経済の元、国の発展につながったのだと思う。クリスタルの加護だというが、それらは間違いなく大地の恩恵だ。蒼龍や白虎にも自分が知らないだけなのだろうとは思うが、トレイは朱雀が最も豊かであると感じていた。
 それに、雨は嫌いじゃない。
 しとしとと降り続ける雨はまるで音楽のようで、けして耳障りなものではない。雨の音が外の音を打ち消すのも、また良いものだ。本を読んだり、ものを書いたりするのに集中できる。確かに雨の日の作戦や任務ほど憂鬱なものはないが、それでもトレイは雨の日が好きだった。
 今も、こうしてベッドの中で雨の降る音を聞いている。隣には先程まで抱き合っていた男の背中。くん、と背中に鼻を擦りつけるように匂いを嗅いだ。行為の後軽くシャワーを浴びたため、汗の臭いはしない。代わりに自分と同じ石鹸の匂いがした。同じ石鹸を使ったのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、自分と同じ匂いがするのは不思議なものだ、とトレイは思った。
「……雨は、嫌いだ」
「キング?」
 ぽつりと口にしたキングに、トレイは小さく名を呼んだ。眠っていたと思っていたが、どうやら起きていたらしい。キングも雨の音を聞いていたのか。ごろりとトレイの方に身体の向きを変えると、キングはぎゅうとトレイの身体を抱きなおした。狭いベッドの上だ。それだけでベッドはぎしりと音を立てた。難しい顔をしているキングに、トレイは問いかけた。
「攻撃力が下がるからですか?」
 キングの武器は拳銃だ。ケイトの魔法銃と違って物理的な攻撃である。エースのカードも、トレイの弓も魔力で実体化しているが、キングの拳銃は違った。だから、天候によって影響が左右されることもある。そのような扱いづらい武器を扱うのは、個々によって扱う武器が違う0組の中でもキングだけだ。さすがに濡れたからといって使えなくなるような品物では戦場では役に立たないから、そのような事は勿論ない。そんなものをそもそも実戦投入しない。水没しても、泥にまみれても、正常に射撃できる事が前提だった。だが。
「それもあるが……、初弾の精度が悪くなる。風が強いのも困るがな」
「あぁ……、なるほど」
 キングは不必要な弾を打たない。狙える限り急所を狙い、一撃で仕留める。それはキングだからというわけではなく、0組全員に叩きこまれた技術の一つだ。多くの敵を倒すために。また、それは敵をより苦しませずに倒すための技術でもある。トレイもキングも遠距離攻撃担当だ。めったなことでは同じ班になることもない。改めてこうして相手の武器の話を聞くこともないので、興味深かった。
 普段は銃ばかり握っているキングの手を取り、トレイは頬に滑らせた。硬い、まめで覆われた男の掌だ。だが先程までトレイの身体を撫でていた、優しい男の掌でもある。温かい。
 じゃれるトレイにキングは鼻を鳴らした。
「ふっ……、何だ」
「明日は、何もないでしょう」
「座学がある」 
 実践演習が入って無ければ、大概は午前中に0組の隊長であるクラサメから講義を受け、午後には闘技場で個別に訓練や、クリスタリウムで勉強をする。上の街で買い物をすることも可能だ。
「座学なら、雨でも構わないでしょう」
 明日も一日雨の予報だった。COMMから配信されている天気予報で知った。
「外の景色がつまらない」
「キング……」
 休憩時間、よく教室の一番後ろの窓際の席で外の景色を見ているキングの姿を知ってはいたが、まさか講義中もそんな態度を取っていたなんて。初めから講義を聞く気など無いというような事をいうキングに、トレイは少しばかり呆れた。ある程度のことは外局にいた時に叩きこまれているが、それでもクラサメから教わることには役立つことや初めて聞く内容のことも多いのだ。ならば、あえて訓練をしてみてはいかがでしょうか、といってやりたい気持ちになる。雨天では十分に実力を発揮できない、だからこそ訓練が必要といえば必要なのだろうが。わざわざそんな日に訓練をしたがる物好きもいないだろう。もし訓練を行えば、キングにとっては酷く抑圧のかかる訓練になるに違いない。
「一日こうしていたいな、お前と」
 キングが回した腕に、ぎゅ、と力が込もった。肌と肌が密着して、新たな熱を生み出しそうになる。それを気取られるのが恥ずかしくて、トレイの口からはつい本心とは真逆の言葉が出てしまう。
「一日中抱き合うと? いけませんよ、そんな自堕落」
「つれないな。……そういえば」
「はい?」
 もぞり、とキングの腕から抜け出して、キングの顔をトレイは見つめた。
「お前はあまり俺の部屋に来ないな。何故だ」
「なんです、突然」
「別に。気になったから聞いただけだ」
「私から行かなくても、あなたから来てくれるじゃないですか」
 たしかにこうして二人で過ごす時は、キングがトレイの部屋を訪問することが多い。多い、というよりもほとんどがそうだ。現に、今もこうして過ごしているのはトレイの部屋だった。めったなことではトレイはキングの部屋に来ることはない。それこそクラサメから言伝を受けた時ぐらいしか、来ないのではないだろうか。
「そうだな……。たまには、俺の部屋に来るか」
「え」
「……嫌なのか」
「そうでは、ありませんけれど」
 言葉尻を濁すトレイを覗き込んでみると、ふい、と顔を背けてしまう。
「……ふぅん」
「な、なんですか」
 何か思いついたかのようににやりと笑うキングに、トレイは再度問いかけた。
「次にトレイが俺の部屋に来るまで、俺はトレイに触れない」
「どうしてそういうことになるのですか」
 がばりとかぶっていたシーツから抜け出ると、トレイは半身を持ち上げた。
「嫌なら明日にでも俺の部屋に来ればいい。毎日セックスするのが嫌なら、したくなったらくればいい」
「別に、あなたとしたいからという理由だけで、こうしてあなたを部屋に入れているわけではありませんよ」
 なんてことを言うのだ。そのように思われていたのならば、随分と馬鹿にされていたようなものだ。咎めるようにキングをトレイは睨みつけた。
 憤慨する態度を見せるトレイを宥めるように、キングはさらりとしたトレイの髪を撫でた。
「わかっている。でも、たまにはお前からの好意を目に見える形で確認したいんだ。俺はそんなに難しい事を言っているか?」
 駄目か?と優しく問いかけてくるキングに、トレイは何も言えなくなってしまう。
「……いいえ」
「なら決まりだ。……おやすみ、トレイ」
「あ、ちょっと待ってください」
 最後までトレイの言葉を聞くことなく、キングはすぅ、と眠りについた。
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2012/12/16 (Sun) FF零式 Comment(0)
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