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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/05/05 (Sun)
 

「何故、このような事をする」
「……愚問ですね。それがクリスタルの意志だからですよ」

SCC新刊。P42/¥400/A5/コピー本
気持ちK3ですがそれほどBLはしてないと思います。
自己満足俺設定暴走気味。 多分に捏造設定があります。
もしトレイが皇国ルシになったらパロディです。
本編程度の流血残酷表現があります。
苦手な方はお手に取らないでいただきますよう、 よろしくお願いいたします。


1.
「キング。キングは『レテ河』をご存知ですか」
「レテ河? ……聞いた事がないな」
 ぱらりとトレイが本を捲りながら、おもむろにキングに問うた。キングはオリエンスの世界地図を頭に思い浮かべてみたが、そんな名前の河など知らなかった。
「いえ、おとぎ話なのですがね。鴎史以前の民間伝承の一つです。レテ河は黄泉の国にいくつかある河の一つで、その河の水を飲んだ者は一切の記憶を忘却してしまうのだとか」
「クリスタルの慈悲みたいなものか」
 トレイは机に向かい本を読み、キングは床に座り込み銃の整備をしていた。別にわざわざキングの部屋に来てまで本など読まなくともよいと思う。だがトレイが本を読むのに夢中になっている時キングが相手にされないのと同様に、キングが銃の整備をしている時はトレイも相手をされない事を知っているからかもしれなかった。相手にされなくても傍にいたいだなんて可愛いじゃないか。だが思うだけで言葉にすることはなく、キングは銃身を布で磨いていた。それにトレイの言葉は聞いていて心地よい。話している内容はともかくとして。
「ええ、そうですね。まだクリスタルの存在が確立されていなかった時代ならではのものでしょう。当時の人々には死者が黄泉でこの河の水を飲んだから、生者の中から死者の記憶が失われたと考えられていたようです。なのでけしてレテ河の水を飲むなと言われていたとか」
 生、記憶、思い出への執着。それらはこのオリエンスに生きる者であれば持っていて当然のものだろう。絶えず争いが続き、今も朱雀は戦中である。死と隣り合わせである事が日常となり、慣れきってしまっている、異常な状態である。
「トレイ?」
「オリエンスでは死ねば生者から死者の記憶が失われます。そのことが辛い、寂しいという人もいますが、私は過去の亡霊に捕らわれないことの方がよほど安心です。死者の記憶があったらと思うとぞっとしますね。そんな事が起こったら私達は前に進めなくなってしまいます」
 それは事あるごとにトレイが口にする言葉だった。だがその言葉はまるで己に言い聞かせるようでもあり、裏を返せば『死者の記憶を失いたくない』と言っているのも同義だった。
「ルシになったら」
「え?」
「ルシになったら、全ての人々にルシの記憶が残るという。だがルシは生きながら人としての感情を失うという。感情だけじゃない。人間としての意思や欲も、全て」
「キング?」
 キングの言おうとしている事がわからなくて、トレイは本からキングに目線を上げた。
「覚えていられたとしてもルシ本人に感情がないんじゃあ、無意味だな」
「……、そうですね」
 魔導院の中にも朱雀のルシが二人いる。甲型ルシのシュユ卿と乙型ルシのセツナ卿だ。ルシは寿命がないとされ、セツナ卿は優に五〇〇年もの時を生きているという。それだけの時を生きていればルシでなくとも感情の一つや二つ無くなってもおかしくないのではないかとも思うが。毎日魔導院で生活していてもほとんどその姿を見ることはない。なんでも魔導院の中枢、朱雀クリスタルが収められている地下霊廟にいると話では聞いた事があるが、定かではない。ほんの一、二度、その姿を魔導院で見たことがあるが、やはり自分と同じ人であるとは思えなかった。普通の人間とはだいぶ逸脱していると思う自分達から見てもだ。
「忘却といっても様々ですね。人であるからこそ、記憶に残りたい、のですかね……。たとえ、誰かを傷つけるのだとしても」
 程度の差こそあれ、候補生、特に0組の候補生は皆冷徹な性格をしていた。トレイもキングも変わらない。それは身分たちが育った環境のせいかもしれず、また元々の気質のせいなのかもしれなかった。トレイは知識がある分他の者たちよりもより合理的に判断し、行動するところがあったが、今日の彼はずいぶん感傷的すぎやしないかとキングは不安になった。
「トレイ、こっちに来い」
 銃の整備を粗方終え道具を仕舞い、銃の現物は魔法で消してしまうとキングは椅子に座るトレイを呼び寄せた。
「……はい」
 大人しく絨毯の上に座るトレイをキングは抱きしめた。それは性的なものではなく、家族に対するものだ。
「どうした? なにかあったか」
「あなたには、何も隠せませんね」
 くす、と笑ってトレイはキングから離れ、背もたれがわりにベッドに寄りかかった。
「私、ね。どうやらルシになってしまったようなんです」



* * *



2.
 だいぶ皇国の生活にも慣れてきたころ、いつものようにカトルの執務室で過ごしていたトレイの前に、カトルの部下であるフェイス大佐が一枚の資料をもってきた。部屋の真ん中にある会議にも使用する八人掛けの大きな机にバサリと音を立てて広げる。
「これが何だかわかるか」
「ビッグブリッジ、メロエ地方……朱雀と皇国の国境の地図ですね」
「そうだ」
 候補生として武器を扱う技術や世界情勢を学んでいたのだから、知らないわけはないだろう。フェイスが持ってきたものは、次の決選の地であるビッグブリッジ周辺の作戦図である。卓上での模擬演習を何度も重ね、推敲し作り上げたレポートの一部だ。あとは元帥閣下の印を頂戴すれば、実行に移す段階まで来ていた。
「君なら、どう動く」
「ルシとしてですか、それとも私に参謀の真似事をさせようとでもいうのですか」
 カトルは見極めるように、トレイを隻眼で見つめた。トレイもひるむことなく、その視線に答えた。その気概にカトルはふっ、と笑った。
「未だ貴様の事を朱雀から送られたスパイであるかもしれんと疑うものも多いのだぞ。次の作戦では貴様も前線に連れていく。拒否権はないからそのつもりでいるように」
 トレイの態度に不快感を覚えたフェイスは自然と声を荒げた。
「フェイス」
名を呼びカトルはフェイスの言葉を遮った。フェイスははっとした顔を見せると、「失礼しました」とすぐにカトルに謝罪し一歩離れて壁際に立った。
フェイスの言葉は真実だ。トレイを朱雀からのスパイだと疑うものは多い。しかしスパイにしては大人しすぎる。一か月近くの間カトル自身の監視下において、トレイは妖しい動きも見せていない。彼はスパイではない。それだけはカトルは信じる事が出来た。
もう一度トレイに向きなおり、カトルは地図の上にいくつかの駒を置いた。朱い色の駒と、白い色の駒だ。
「ならば、ゲームと思えばいい。君ならどう攻める? 勿論君は皇国軍だ」
「……ふむ。そうですね」
 トレイはゆっくりと立ち上がった。
 地図を目の前にして、暫く考える様子を浮かべた後、トレイは静かに口を開いた。
「白虎から朱雀を攻めるには、まずは制空権を握る事です。朱雀にも飛空艇がないわけではありませんが、白虎のそれと比べたら無いも同然ですから。朱雀を潰すには空からが鉄則です。皇国と比べて高い建物もありませんから街の破壊は容易でしょう。主な大隊はビッグブリッジ西側に待機、二つの大橋は死守。戦場を見渡せるリナウン丘陵とメロエ丘陵も、出来れば皇国のものにしておきたいですね。アレリオン空軍基地がちょうど東側にありますから問題ないでしょう」
 こつ、こつと机の上の白い駒をトレイは迷いなく動かした。
「しかし朱雀軍も馬鹿ではあるまい。彼らの魔法障壁は我々には脅威だ」
 これまでも皇国軍は朱雀兵に散々苦しめられてきたのだ。魔導アーマーという他国よりも進んだ機械技術を持ちながら、なお皇国がオリエンス統一を成し得ないのは、朱雀の魔法技術があるからといっても過言ではない。術者の能力によって差異はあれども、鉄の弾を打ちこんでも、ビームライフルを撃ってもそれらを人の手で防ぐ事が出来るというのは常識を逸している。そしてときおり出現する、空を覆うほど大きな竜のようなモンスター。蒼龍が使役するドラゴンとはまた種類の異なるもので、普段は見る事がない。そしてそのモンスターが消えると、地上に広がる夥しい朱雀の若いアギト候補生達の死体が必ず現れるのだ。朱雀兵ではない、候補生の死体だ。それらはけして皇国軍が攻撃したから出来た死体の山ではない。それは大きな戦いがあるたび、毎回見つかった。戦闘が終わった後の調査で分かった事だ。それが同士討ちなのか、見せしめなのか、どういった理由なのかはわからなかったが。その場所が最前線ではない事だけは確かだ。
 それが朱雀クリスタルの力、魔法技術の行きついた先なのだと言われたらそれまでだが、皇国で生きている者としては理屈の通らない朱雀の力はそれこそ『魔法』を見ているようで恐ろしいものだった。
「殲滅しなければ決まらない戦ではないでしょう。リナウン要塞を守れば良いのです。守り切れば朱雀軍は撤退します。そのままメロエの街も皇国のものに出来ますよ」
「どういうことだ」
 トレイはフン、と鼻を鳴らした。
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2013/05/26 (Sun) FF零式 Comment(0)
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