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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/05/06 (Mon)
 

FF零式K3再録本です。A5/P32/¥300/コピー本。
『七色シューティングスター』(支部掲載済)
『ナツコイ。』(支部掲載済)
『Night Bazaar』(K3アンソロ寄稿文)
『密会は森の中で』(書下し)
の四本です。
去年のK3アンソロ手に入らなかった方向け。
 

密会は森の中で



 ギィと音を立てて扉をあけると、そこは広い吹き抜けになっていた。微かに聞こえる話声、本のページをめくる音、軽い咳払い。天井まで届く本棚は圧巻だ。窓からは午後の柔らかな日差しが差し込んでいた。
 朱雀魔導院、クリスタリウムである。
左手にある掲示板に向かい通知に目をやれば、そこには定期試験の予定が貼り出されていた。しかし0組には関係がない。その代わり、0組には時折担当教官であるクラサメから独自の試験や課題が出されていた。今日クリスタリウムにやってきた理由も、課題が出されていたためだ。でなければ、用事もないのにわざわざこんなところには来ない。トレイやクイーンではあるまいし。0組全員が同じ課題を出されていたならば、クイーンあたりに要点を取りまとめてもらえば良かった。だがあいにくとクラサメは個々に課題を出していた。暇人でもないのに余計な事をしてくれるなと内心悪態をつきながら、キングはクリスタリウムの入口正面に設置してある『朱の目録』を開いた。


* * *


 『朱の目録』というのは、魔導院に所属している者であれば誰もが開く事が出来る端末だ。ID代わりのCOMMと連動して、クリスタリウムの蔵書を検索する専門端末だ。クリスタリウムは一見一階と地階が続いた広間に見えるが、実際はもっと広い。開架式になっている部分はほんの一部で、その倍以上の広さの書庫が広がっていた。横は通常のクリスタリウムの奥、ちょうどエントランスの真下あたりまで、縦はさらに地下まで続いているのではないだろうか。 
仮にも朱雀の中枢が置かれているペリシティリウム朱雀の一部である。国家の所持する貴重な資料が数多く存在し、またそれらを保管、整理、研究する部署が置かれている。資料の破損を防ぐためにも、重要な本は書庫に仕舞われていた。当然書庫に入る権限を持つ者は、そう多くない。いくらアギト候補生といえども簡単には許されていなかった。自由に入る事が出来るのは専属の文官や、クリスタリウムに研究室を構えているカヅサぐらいのものだろう。
当然、キングは今まで書庫に入った事はなかった。何よりそんな場所に行く用事など今までなかったからなのだが。
『朱の目録』を開く。COMMと繋げるとぼうっと赤黒い光を放ちながら本の形をしたそれは開いた。
キングがクラサメから与えられた課題は『朱雀・皇国国境紛争時における軍神利用の有益性』だ。0組の指揮官としての役割も求められるキングには、朱雀はもちろん皇国の地勢情報も求められる。何処に誰を配置し、いつ軍神を召喚し最大の効果を得られるか。朱雀は過去の歴史に置いて度々隣国と争いを繰り返してきた。そしてその時は必ず強大な力を持った軍神を召喚してきたのだ。多大な犠牲を払って。今ではあまりにも朱雀の人的損害が大きすぎる為、『秘匿大軍神』などと呼ばれている。だが仮定の話であれば、参考になるものもあるだろう。紙上で模擬実験をするのも無駄ではない。
「ないな……。む」
あった。朱雀のルシに関する文書だ。だが場所がよくない。書庫だ。取りに行くのが面倒くさい。だが面倒だといって終わるものでもない。ならば面倒なことは早く終わらせた方がいい。古い書物だったが古語で書かれているのではないだけましだ。
「……、……」
キングは眉間にしわを寄せながら、貸出申請用紙に文書の題名を書き殴った。
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2013/05/26 (Sun) FF零式 Comment(0)
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