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身体的欲求が最初の身振りを引き出し、情念が最初の声を引き出した。情念は人と人を引き付ける。最初の声を引き出させるのは、飢えでも、乾きでもなく、愛であり、憎しみであり、憐れみ。レヴィ=ストロースより引用
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2024/05/06 (Mon)
R18尊礼。A5/P24/¥200

宗像所有のマンションでいちゃいちゃ。
33rd floor



高い塔には男が一人で住んでいた。 
普段生活している場所は別にあるのか、その部屋にはまるで生活感というものがなかった。ホテルの一室というよりも、そう、マンションのモデルルームそのままといった様子だった。ベッドや冷蔵庫といった必要最低限の家具があるばかりで、そのほかはただただ白い壁ばかりだった。一枚だけ観葉植物を描いたインテリア絵画が壁に飾ってあったが、それも部屋の主とはとても不釣り合いなものだった。
日当たりのよい窓辺からは、眼下に高層ビルが見えた。眼下にだ。
ベランダに出るとごう、とビル風が身体を煽った。視界を遮るものは何もない。

ここは高層マンションの三十三階。
宗像礼司のセカンドハウスだ


* * *


 それは猫によく似ていた。
気まぐれに、自分の気が向いた時にしかすり寄ってこない。自由奔放で、まるでいうことを聞かない。一日の大半は寝て過ごしているし、誰よりも鋭い爪をもっていた。おまけに肉食だ。会いたい時は捕まらなくて、来なくてもいい時だけ不意に姿を現す。
その猫は紅い毛並みの良い猫だった。臣下をたくさん引きつれた、このあたりのボス猫だった。いつも街中をふらふらして何をするわけでもなく歩いていたから、おそらくきっと野良猫なのだろう。けれど、誰か世話をする相手がいるのか、食事は十分に与えられているようだった。
 猫の名前は、周防尊。

 日の光をたっぷりと吸った部屋の中は、白い壁と相まって眩しいほどだった。
 昼過ぎの穏やかな日差しの中で、猫と昼寝が出来たらさぞかし気持ちがいいだろう。
 そんなどうでもいい事をつらつらと考えながら、宗像礼司は惰眠を貪っていた。普段のセプター4室長であるところの、青の王であるところの宗像礼司を知っている人間から見たならば、あまりに異なる態度の為に信じられないだろう。普段と同じところといったら、眼鏡の形と、寝間着がわりにしている浴衣ぐらいなものだ。
 場所は都内某所椿門のほど近くにある高層マンションの一室。三十三階にある宗像礼司のセカンドハウスである。今日は非番だ。普段生活する場はもちろんセプター4屯所の敷地内にある寮の中に、一人部屋があった。だが非番だからといっても屯所の中を歩きまわれば、部下の面々に気を使わせてしまうのも確かだ。揃いで休みならばまだしも、今日は平日で多くの隊員が通常通り業務を行っていた。別段休暇が欲しかったわけではなかったのだが、法務局の人事部から半ば無理やり有給休暇を消化するよう通達があり、シフトに捻じ込まれたのが今日だった。セカンドハウスはセプター4室長という地位を持つ以上、命を狙われやすい立場にあるから、という理由で上層部がわざわざ用意したものだ。普段特別な事がない限り、ほとんどこの部屋は使ってはいなかった。今日は空気の入れ替えがてらやってきたのだ。重要なものはこの部屋に何一つない。何かあった時の為に簡単な下着類と、眠る為のベッドがあるだけの、モデルルームの方がまだ生活感があるのではないか、と思えるような部屋だった。防音もよく効いていた。通常の防犯であれば十分だが、いくら三十三階とはいえ相手が特異能力者であったならこんなところに部屋を持っていたとしても無意味だろう。ちょうど今この瞬間のように。
 
カツン。

 誰もいないはずの、いるはずがないベランダの外から物音が聞こえた。宗像は首だけ向きをかえて、ベッドの上からベランダを眺めた。

カツン、カツン。

「……小石?」
 のそりと立ち上がり、ベランダへの引き戸を開ける。足元には小さな石が三つ、落ちていた。こんなところに小石を投げ込む事が出来る男など、一人しか知らない。
 赤の王、周防尊。
どう、というビル風が吹き抜けるとそこに人影が見えた。件の彼だ。ふわりと地上から飛んできたのか、ベランダの手すりの上に立っていた。浮いていた、といった方が正しいのかもしれない。
「よお」
 宗像は別段驚く様子もなく、ふうとかるく溜息をついただけだった。
「貴方、もっと普通に私の前に現れることは出来ないのですか。つまらない事で王の力を使わないでください」
「うるせえこと言うなよ」
 挨拶がわりの言葉の応酬。これらは全て予定調和だ。コミュニケーションの一つの方法だと言っていい。宗像が本気で怒っているわけではない事を周防も知っているのか、宗像の小言は全て聞き流していた。宗像もそれに対して気にしていないのか、それ以上何も言うことはなかった。
 からりと引き戸を開けて、宗像は周防を部屋に入れた。
「靴、脱いでください」


* * *


「タンマツ、電源入れてないのか」
「非番ですから。それとも私に何か用事でもありましたか? 貴方から連絡を取ろうとするなんて、めずらしい」
「用事なんてねぇけど、どっかの王様が一人で寂しくしてるような気がしてな」
「ふん、気持ち悪い」
 客人用の椅子もソファもない。仕方なくベッドの上に周防を座らせ、隣に宗像も座った。茶の一杯を準備しようにも、冷蔵庫にはミネラルウォーターのペットボトルしか入っていなかった。そもそも彼は客人ではない。何もそこまでもてなすこともないだろう。
「相変わらずすげー部屋だな」
 部屋の窓からは遠くに高層ビルが立ち並んでいるのが見える。遮るものは、何もない。おそらく窓辺に全裸で立ったとしても、誰にも気づかれることはないだろう。
「なんだか作りもののようで、私は好きではありません。街も、人も、何処か遠くの出来事のようで」
 宗像の言葉に周防はふうん、と興味がないとでもいうように答えた。窓からの景色はけして面白いものではない。ぽっかりと空いたその空間に、お互いが背負っているあの忌々しい剣の幻影が見えたような気がして、周防はふいと目を逸らした。
「セックス、するか」
「周防……。貴方って本当に三大欲求に従って生きていますね……」
「あぁ?」
 半ば呆れたように呟く宗像の声音には、それでも拒絶は含まれていなかった。
「私と会話を楽しむ気はないのですか」
「お前の話は屁理屈が多くてわかんねえよ。それよりも、もっと簡単でわかりやすい方法があるだろ?」
 眉根を寄せる宗像に周防は唇を寄せた。周防が笑っているのが、触れ合う唇の動きで判る。こんな昼間から、抱き合うなんて自堕落にもほどがある。飲んだ帰りになし崩しのまま抱き合ったことならば何度もあったが、素面で、昼間からなんて初めてではないだろうか。
「んん、う……」
 無遠慮に歯列を割って周防の舌が宗像の舌に絡みついた。逃げる素振りをする宗像の顔を両手で押さえて、より深くキスをした。上顎まで舐められて、さすがに息苦しくなり宗像は周防の胸を突いた。
「ぷは……っ」
 いつものことながら、周防のキスは煙草の匂いがする。少し苦い。人の煙草の匂いなど、本来は不愉快なだけなのだが周防のそれだけは違った。
「眼鏡外せ」
「周防」
 キスするのに邪魔だろう。そういうと周防は宗像の眼鏡を外し、ベッドサイドに置いた。視界がぼやけるのか、宗像は少しばかり目を細めて周防を見つめた。挑む様な目線のまま、お互い見つめたまま再びキスをした。ぢゅつ、と濡れた水音を立てながら互いの舌先を吸った。
「っ」
 するり、と宗像の来ていた浴衣を周防は片手で脱がした。隙を見せた宗像を抱えたまま、周防はどさりとベッドに倒れこんだ。露わになった宗像の薄い筋肉の付いた胸に、周防は鼻を擦りつける。くすぐったいのか、宗像は軽く身震いした。
「ん、周防、なんだ」
「風呂入ったのか」
「休む前に軽くシャワーは浴びましたが」
 くん、と匂いをかぐと、仄かに香水とは違う、石鹸の清潔な香りが宗像の身体を包んでいた。
「貴方、シャワーは」
 シャワーを浴びないままセックスするなんて御免だった。ついでに歯も磨いてきて欲しい。初心かと思われるかもしれないが、それは最低限のマナーだと思う。
「あ? 今さらそんな事言うな。それに俺の匂いがした方が感じるだろ」
「野蛮人め」
 初めからそんなつもりなどなかったのだろう。周防はにやりと笑って着ていた白いティーシャツを脱ぎ捨てた。
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2013/03/27 (Wed) K Comment(0)
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